
連携事業継続力強化計画への取り組みについて
2025.04.07
[執筆]
株式会社サイエンス:渡邊雪恵
株式会社サンキョウーエンビックス:大角知登世
1. はじめに
近年、地震や台風・豪雨による自然災害や感染症による経済活動へのダメージなどが増加してきており、企業は事業活動を継続させるための対策が必要となってきました。これを踏まえ、昨年、岡山県にある株式会社サンキョウーエンビックスと静岡県にある株式会社サイエンスの2社で「連携事業継続力強化計画」を申請し、 12月に認定されました。両社は同業者で以前より親交があり、事業所の規模も同程度であることから協力関係を築けると考えました。本業(分析部門)の連携強化と事業継続力強化計画を並行して進めることによって相乗効果が生まれ、相互の経営力強化を効率よく推進させることが期待できます。
2. 連携事業継続力強化計画とは
「事業継続力強化計画」とは、中小企業が自社の災害リスク等を認識し、防災・減災対策の第一歩として取り組むために必要な項目を盛り込んだ計画で、将来的に行う災害対策などを経済産業大臣(地方経済産業局)が認定する制度です。 2019年に自然災害に関する事前対策、 2020年は感染症に関する事前対策で、事業継続力強化計画の認定がスタートしました。この事業継続力強化計画の期間は認定されてから3年で、 1社で作成する「単独型」と複数の企業が連携して作成する「運携型」の2種類があり、今回は連携型についての話となります。
3. 連携事菓継続力強化計画の取り組み
昨年4月、連携事業継続力強化計画の認定を得るために、「連携事業研究会」を立ち上げました。この研究会では月一回のWeb会議を実施、両社のハザードマップや災害対策の共有、更には、研究会メンバーが相互の会社を訪問し、実際の活動を見学しました。この研究会において、連携事業継続力強化計画を「お互い様連携」と名付けました(以降、お互い様連携という)。

3.1 年間計画表
年度当初にWeb会議の日程や実践していく内容を決定しました

3.2 両社における災害リスクの確認
お互いの拠点について、ハザードマップを利用して想定される災害を把握しました。遠隔地であるため両社が同時に被災する確率は少なく、どちらか一方が被災した場合、被災していない方で復旧支援体制を整え、要請に従って行動します。

図3. 両社の位置関係及びハザードマップ
出典:国土交通省「ハザードマップポータルサイト」
https://disaportal.gsi.go.jp/hazardmap/maps/index.html3.3 相互訪間
研究会のメンバーが、相互の会社を訪間し、実際の災害対策、分析設備や測定方法等を視察しました。その他、業務の流れやWeb会議では伝わりにくい社内の雰囲気なども肌で感じてもらい、相互理解が更に深まったと思います。次に、災害対策の一環として、災害時のお互い様連携での対応可能範囲について意見を出し合いました。分析設備の損傷と人的被害の両面から考えた際に想定される、被害レベル2~4 について相互支援の内容を検討していきます。


3.4 災害時に分析業務の遅延を防止するため、両社の連携体制の確認
(1) 2社間での精度管理の実施災害後、速やかな事業再開をする際に自社で分析できない場合は、外部委託をする必要があります。お互い様連携を利用するには、各々の顧客に安定した結果を提供することで、顧客に安心していただく必要があります。その為、 2社間で精度管理を実施しました。また、動画を録画しお互いの操作方法を後から検証できるようにしました。分析項目は生活環境項目の中からss (浮遊物質量)を選定し、 2社間で誤差が5%以内となることを目標としました。試料は経時変化が起きにくく、容易に移動ができる物として培養土と腐葉土の乾燥物としました。初めは両社が普段実施している方法で測定を行い、その結果から誤差要因を抽出し、条件をそろえて再度測定を行いました。最終的には 2社間の誤差は5%以内となりました。 (2) Wearable Camera を使用した遠隔指示による機器分析災害時や感染症に罹患した時、出社が困難になる社員がいると想定されます。その場合、人的資源が欠乏し、分析業務に遅延を生じることが考えられます。そこで、出社困難な分析担当者が自宅から遠隔指示することで、社員もしくは派遣技術者が分析操作すれば、業務に遅れは生じません。今回は、WearableCameraを使用した遠隔指示による機器分析を試みました。まず、未経験者でも操作ができるように機器の写真やPC画面のコピー機能を利用して、分析機器の操作マニュアルを改訂しました。次に、このマニュアルとWearableCamera によるオンタイム映像、更に遠隔指示を加えることで操作を行えることを確認しました。

4. お互い様連携を通して見えてきたこと
・会社や社員のハザードマップを確認することにより、リスクマネジメントに役立つ。 ・年間計画表を作成したことにより計画的に実践できた。 ・毎月のWeb会議、相互訪間等での交流を通して、日頃抱えている疑問の相談ができる。 ・外部の視点から、社内の間題点が見えてきて改善につながる。 ・精度管理時に2社間の誤差が大きかったが、原因究明を一緒にでき、方法の改善につながった。 ・同業他社と技術的な面の話ができて、教育に生かせる。 ・分析機器操作マニュアルや分析時の動画を残すことによって、社員教育の資料として活用できる。
今後のお互い様連携について
引き続き、年間計画に基づいて、組織体制や災害時のアクション手順、演習や訓練並びに計量精度の向上を可能な限り両社の全社員を巻き込み実践していきます。 実践の中から問題や課題を抽出し、検討し、PDCAサイクルを回していきます。 防災・減災対策の第一歩として始まったお互い様連携ですが、双方の状況を理解し、平常時においても相互の経営力強化を効率よく推進していきます。 また、分析業務においては、引き続き他分析の精度管理や分析機器操作マニュアルを見直し、お互いの技術の向上、次世代の育成に努めていきます。 (一般社団法人日本環境測定分析協会 第30回2023年度日環協・環境セミナー全国大会inふじのくに≪要旨集≫より転載)