
猛禽類調査について
2025.05.09
[執筆]
環境計測部調査課 下總雄太
猛禽類調査とは
猛禽類とは、他の鳥獣類を捕食する鳥の仲間の総称を指します。一般的には、ワシ・タカ・フクロウといった仲間です。猛禽類は生態系ピラミッドの頂点に位置しているため、その地域の生態系の豊かさを表す指標とされています。そのため、事業開始前に実施する環境影響評価の1項目として設定されることが多いです。

1. 猛禽類調査方法について
調査方法は、「猛禽類保護の進め方(改訂版)-特にイヌワシ、クマタカ、オオタカについて-(平成24年12月、環境省)」や「サシバの保護の進め方(平成25年12月、環境省)」を参考として進めます。 猛禽類調査の定点観測には8~15倍の双眼鏡、20~60倍のフィールドスコープ(望遠鏡)、三脚、雲台(うんだい、三脚の頭についているカメラの向きや傾きを調整する部分)、カメラ(ビデオカメラ)、無線などを使用します。 双眼鏡で猛禽類を探し、見つけたらフィールドスコープに切り替えて詳しく観察します。同時に、可能であればカメラまたはビデオカメラで個体写真や動画を撮影します。ほとんどの場合1地点だけでなく複数地点で調査するため、ほかの地点の調査員と無線で位置、飛翔ルート、個体情報などをやりとりします。そこから繁殖の有無、営巣地の場所を特定し、保全対策に必要な情報を収集していきます。 1日に3人~6人程度の猛禽類を識別できる調査員を1地点に1人配置して1日調査を行います。

2. 猛禽類の個体を識別するには
識別には種、齢、性があります。 種の識別は、大きさ、シルエット、飛び方、鳴き声、色合いなど複数の情報から判断します。オオタカだとオスがハシボソガラスと同程度の大きさ、メスがハシブトガラスと同程度の大きさです。 齢の識別は、主に羽の換羽情報から判断します。鳥には換羽があり、オオタカでは幼鳥は生まれた年は換羽せず幼羽のままで、翌年の夏~秋にかけて第1回冬羽に換羽するといった情報をもとに齢を確認します。 性の識別は、前述した大きさ(オスよりメスの方が大きい)やオスは背面が青灰色、メスの背面が暗褐色であることが多いです。また、虹彩がオレンジ色ならオス、黄色ならメスの可能性が高いですが、オレンジ色にならないオスもいるため注意が必要です。 さらに個体を細かく識別するには、羽の欠損情報を継続的に見たりします。その他、眉班や模様の太さなどを継続的に観察して総合的に判断します。また、抱卵中、育雛中の個体はお腹に抱卵跡がついているなど特徴がみられることがあります。

3. 種の判別によく使う機材
種の判別や個体識別はスコープで観察して目視確認するだけでは判断が難しいことがままあります。そのような時は写真、ビデオで個体を撮影してそれを確認して判断することがあります。 高倍率のカメラを使用するか、デジスコというデジタルカメラとスコープを組み合わせた方法で高倍率の写真やビデオを撮ることができます。 高倍率のカメラは一眼レフに高倍率レンズを付けるか、高倍率ズーム機能を持ったデジカメを使用します。最近では光学ズームで30倍~60倍(中には100倍以上なんてものも)できるものがあるのでそういった機材を使用して記録します。 デジスコは、スコープの接眼レンズの倍率とカメラの35mm判換算焦点距離を掛け合わせた数値になります。例えば接眼レンズが30倍のものとズームが1~3倍(ここでは焦点距離を38mm~108mmとします)のカメラを組み合わせるとおよそ30~90倍(焦点距離1140mm~3420mm)となります。昨今の良く出ている光学60倍のコンパクトデジタルカメラでは焦点距離が1200mm~1440mmほどなので、より遠い個体も識別しやすくなります。

4. データの整理
猛禽類を現地で確認したら、野帳に種名、確認時間、性、飛翔ルート、とまっていた位置、行動及び誇示行動(特徴的な行動であり、求愛やなわばりを主張するときに行う)を記入します。特徴的な行動や飛翔ルートは行動エリアや巣の位置を特定するのにも重要な情報です。

5. その他の情報
オオタカは、営巣木の近くに外敵(人など)が近づくと「ケッケッケッ!」などと表現される警戒音を発することで知られています。しかし、調査員の間で、近年この警戒音を出さずにじっと身を潜めている個体が増えているという話を耳にしています。警戒音があればすぐに撤退し、営巣木の位置も特定しやすいですが、じっと身を潜められると見落とす可能性があります。そのため、林内踏査する前に必要な情報(餌運びが見られた、付近で交尾が確認された等)を多く収集して、営巣する可能性の高い環境を注視して調査する必要が生じます。 オオタカも目立つ警戒行動をするよりも外敵から発見されるリスクを小さくする方が危険が少ないとでも考えてきているのでしょうか。

引用文献:1.森岡 照明・叶内拓哉・川田 隆・山形則男(1995)図鑑 日本のワシタカ類、(株)文一総合出版